一般的に、文章力のアップには「良い文章」をたくさん読むことがプラスになるといわれています。
ただ私は、「悪文」を知ることも効果的なトレーニング方法だと思っています。「悪文」とは、手元にある辞書で引くと「表現が下手で、意味がわかりにくい文章」と書かれています。
といっても、職業ライターでもない方が、普段から「悪文とは?」なんて考えることなんて少ないですよね。
そこでこのコラムでは、実際に見かけた悪文を例に挙げながら、悪文とはどういった文章なのか、その特徴などをお伝えしていきたいと思います。
悪文について理解を深めることは、「良い文章とは?」と考えることと同義です。悪文の原因やパターンを理解することで、逆説的に「良い文章」に不可欠な要素が見えてくるからです。
ただ今回のお話は、実践的な悪文回避のためのテクニックとかではなく、「そもそも論」的な、根っこのお話になってしまう点だけはご容赦ください。
すぐに役に立つ悪文回避のコツなどは、後々、別のコラムで悪文をパターンにわけながらご紹介していきたいと思っています。
また、ここでいう文章とは「人に情報を伝えるための文章」として書かれている、平たくいえば「説明文」を想定をしています。
悪文とは「読めない」ではなく「読みにくい」文章のこと
では早速ですが、みなさんは「悪文」と聞いて、どんな文章を思い浮かべますか?
この辺りは人それぞれだと思うので、絶対的な正解はないと思いますが、私は一応、以下のように定義しています。
悪文とは「まったく読めない」文章や「まったく伝わらない」文章、ではなくて、「スムーズに読めない」「スムーズに伝わらない」文章である、と。
その結果、最後まで読まれず、最悪の場合、読み手によって解釈が変わってしまう文章が悪文だと考えています。
もちろん、まったく意味がわからなくて読めない・伝わらない文章も悪文ですよ。
でも今の世の中、専門的な学術書とかならともかく、私たちが普段目にする雑誌や書籍、Webサイトなどの文章で、なにひとつ理解できないことって、そうそうないですよね?
いくらひどい悪文でも、その多くは、読めばなんとなくは意味がわかるんです。
では何がいけないのか?
悪文の問題点は、読み「にくい」ところにあると思っています。
なぜなら、読み手の中に「読みにくさ」が溜まっていくと、冊子ならページを閉じられ、Webサイトなら離脱されてしまうからです。
つまり、読みにくさが続くと「読まれない」文章になってしまうんです。
さらに「大まかには意味がわかる」ということは、詳しくはわからない、ということでもあります。必然的に、読み手によって受ける印象が違ってしまったり、ヘタしたら文意まで変わって受け取られる可能性もあるということです。
文章は最後まで読んでもらえなければ意味がありません。読まれない文章は存在していないのと同じですから。
そして、情報を伝えるための文章は、誰が読んでも同じ文意で解釈されなければ意味がありません。
読み手ごとに解釈が変わったら、情報を伝える手段として機能していないからです。
これが私の考える悪文の定義と問題点です。ということは、この裏を返せば「良い文章」の定義になるわけです。
良い文章とは「誰もがスムーズに最後まで読めて、誰が読んでも同じ意味に解釈できる文章」ということになります。
単に文章を書くことは簡単ですが、最後まで読んでもらえる文章を書くのって、実は難しいんです。同時に、誰が読んでも解釈が一通りになる文章も、簡単には書けないものなんですよね。
ということで、ここからは実際に私が目にしてきた悪文を例に挙げながら、何がおかしいのか、どう直せばいいのか解説していきたいと思います。
読者が「頭の中で補完しながら読む」文章は悪文

左の写真は、娘に買った「アンパ◯マンジュース(いちご味)」の裏面に、実際に書かれていた文章です。
そして、この文章は悪文です。
「おいしく飲めて健康づくりを応援します」
この文章になんとなく違和感を覚える方は、おそらく多いでしょう。
では、どこがおかしいのか、どう直せばスッキリするのかわかりますか?
まず、前半の「おいしく飲めて」の主語は誰でしょうか?
購入者ですよね。
後半の「健康づくりを応援」しているのは誰でしょうか?
メーカーですよね。
そう。前半と後半で主語がまったく異なる文章が、無理やりつなげられているんです。
これなんてまさに「なんとなくは言いたいことがわかる」悪文です。なんか「ヘンだな」と思いつつも、とりあえずおいしくて健康にいいジュースなのね、と理解はできます。
ただこの時、読み手は頭の中で「補完作業」を行っています。
多くの方がヘンな部分は置いておいて、「おいしい」とか「健康づくり」という、読み取れる箇所だけ拾ってつなげているはずです。
でもその際、ストレスも感じているんじゃないでしょうか。そして、そのストレスが一定量を超えると読むことに疲れ、最後まで読むことをやめてしまうのだと私は考えています。
では、どう直せばストレスのないスッキリ読める文章になるのでしょうか。とりあえず、こんな感じに直してみました。
(修正例)
⚫︎購入者を主語にした場合
おいしく飲めて、健康づくりにつながります
⚫︎メーカーを主語にした場合
おいしく飲めるジュースで、健康づくりを応援します
まだほかにも正解はあると思いますが、大体こんなとことろじゃないでしょうか。
ただ、こんなに文字数があるとスペースに入りきらないため、写真のような文章になったんじゃないかなと推測しています。
つまり、一文にたくさんの情報を詰め込もうとし過ぎた結果の悪文なのです。
情報とは、正確に伝えようとするほど文字数が増えるものです。それを無理に端折ろうとしたり、圧縮しようとすると「言葉足らず」になってしまい、読者はその部分を補完しながら読むことになるのです。
「なんとなくわかる」文章では、最後まで読んでもらいにくいのです。
読者の「誤解を招く」文章は悪文
次に気をつけたいのは、読者の誤解を招く可能性がある文章です。
これは情報を伝えるための文章としては、先述した「読者が頭の中で補完して読む文章」よりも悪文度が高いと個人的には思っています。
ということで、誤解を招きかねない悪文の実例をお読みください。
大阪府警保安課と豊中署は、タイ女性をスナックなどで働かせたうえ売春させ、昨年三月から今年三月までの間に二千数百万円を稼いでいた吹田市内本町1ノ10ノ11 旭ファイブ三〇二号、建築請負業、⚫︎⚫︎⚫︎(31)を七日までに、売春防止法違反容疑で身柄送検するとともに、タイ女性五人を大阪入国管理局に引き渡した。
ちょっと古くて恐縮ですが、昭和57年4月の日経新聞夕刊に、実際に掲載されていた文章です。
これを読むと、一瞬、大阪府警の保安課と豊中署がタイ人の女性をスナックで働かせたのかと思ってしまいませんか?
もちろん、最後まで読めばそうではないとわかります。ということは、最後まで読まなければ全貌を把握できない文章ということです。
この「最後まで読まなければわからない」文章は、誤解を招く悪文の典型的なパターンです。
さらに、上記の文章を読んで実感されたかもしれませんが、途中で「どゆこと?警察が大人女性を働かせて…?」となりながら読むのは、結構ストレスがかかるんですよね。
この程度の短文ならあまり問題ないかもしれませんが、こんな感じの文章が長文の中にあちこちあったら、おそらくその文章は最後まで読まれない可能性が高いでしょう。
では、なぜこの文章はこんな悪文になってしまったのでしょうか。
答えは、「アンパ◯マンジュース(いちご味)」の裏の文章と同じで、一文の中に無理やりたくさんの情報を詰め込んでいるからです。
人が読みやすいと感じる一文の理想的な文字数は30〜60文字程度といわれています。
でもこの文章、全部で153文字あります。
そしてそれが、すべて一文に収められているんです。途中、一回も「。(句点)」で区切られずに。
たとえ誤読の恐れのない文章だったとしても、153文字の文章が一度も区切られず一文で書かれていたら、読みにくいことは間違いなく、それだけで悪文認定して構わないと個人的には思います。
というわけで、以下のように直してみました。
大阪府警保安課と豊中署は、昨年三月から今年三月までの間に二千数百万円を稼いでいた吹田市内本町1ノ10ノ11 旭ファイブ三〇二号、建築請負業、⚫︎⚫︎⚫︎(31)の身柄を、七日までに売春防止法違反容疑で送検した。⚫︎⚫︎⚫︎(31)は、タイ女性をスナックなどで働かせたうえ、売春させた疑いが持たれている。タイ女性五人の身柄は、大阪入国管理局へ引き渡された。
いかがでしょう?使用している文言は、修正前とさほど変わっていません。
それでも途中に句点を入れたり、順序も入れ替えたりしながら、全文を3つの文章にわけてみました。たったこれだけでも、多少は読みやすくなり、誤読の可能性も下がったんじゃないでしょうか。
ただ文字数は、177文字と修正前より24文字も増えました。新聞はこれを避けたいのでしょう。
新聞の文章は、徹底的にムダを省き、極力、短い文章で伝えることに注力しています。そのため、情報量が多い文章になると修正前のような誤解を招きかねない文章が生まれてしまうのです。
皆さん、普段何気なく新聞の記事を読んでいますよね。最近は購読率下がってるから読んでないかもですが…。
でも、新聞のムダを削りに削って事実を伝えることだけに注力した文章って、実はかなり独特な文体で、新聞という媒体だから成立してるものなんです。
ファッション雑誌とか地域のフリーペーパーとかに新聞の文章が載っていたら、かなり違和感があるはずです。誰もが「新聞の文章とはこういうもんだ」と思って読んでいるから、特に何も感じないだけなんですよね。
そして、これと同じことが「プレスリリース」にもいえます。
プレスリリースも基本、数百字程度の短文で、徹底してムダを省き、事実のみを伝える文章ですよね。
なので、普段からプレスリリースの文体に慣れている方も、気をつけましょう。
プレスリリースを書く時のセオリーで、広報誌やWebサイトの文章(特に長文)を書いてしまうと、上記の例ほど極端でないにしても、言葉足らずだったり、詰め込みすぎたりして、伝わりにくい悪文になってしまう可能性があるのです。
文章を「悪文」にしない一番のコツは、親切に丁寧に書くこと
結論として、悪文とは「言葉足らずだったり、情報を詰め込みすぎているせいで、読み手に補完させたり、誤読させたりする文章」ということになります。
裏を返せば、多少長くなっても、誤解のないように丁寧に一つずつ説明して読み手に伝えていく文章が、「情報を伝える」という意味においては「良い文章」なのだと思います。
同じ情報量の文章なら、短い文の方が良い文章であることは間違いありません。
とはいえ「なくてもわかる」からと、どんどんフレーズを切り捨てていってしまうと、上記の新聞記事のようなギチギチに詰まった読みにくい文章になってしまうのです。
「書かなくてもわかるだろう」ではなく、「書いておいた方が親切だろう」を積み重ねていくことが、悪文から脱却するために必要な意識なのだと思っています。
その上で極力、文章を短くしていく努力が必要なのです。
つまり、削るのは「本当に」ムダな言葉だけでいいのですが、その見極めが難しいということです。
ですので私は、文章をを書く際は、まったくそこの土地勘のない方に「道案内」をする時のような意識で書くようにしています。
突然なに言ってんだ?って思いましたか。
つまり、下のAの説明でもたどり着けるでしょう、ではなく、Bの説明なら絶対迷うことないでしょう、の精神で書いているということです。
(A)
イオンは、ここからまっすぐ行ったところにあるコンビニを曲がって、またしばらく行けばありますよ。
(B)
イオンは、ここからまっすぐ行ったところにあるローソンを右に曲がって、またまっすぐ行って信号を2つ越えると、左側に裏の入口が見えてきますよ。
文章力のトレーニングとして、皆さんも親切な道案内の意識で、文章に取り組んでみてください。
今までとは、少し違ったクオリティの文章がかけるようになると思いますよ。
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